Nobless oblige

持てるものの、義務

「ペンギン・ハイウェイ」 森見登美彦

ペンギン・ハイウェイ
森見登美彦

京都も、底辺大学生も、黒髪の乙女も、堅苦しい文体も出てこないけど、まごう事なき森見作品です。

森見登美彦作品はどれも好きなのですが、今回のいつもと少し毛色の違う作品で何で好きなのかわかった気がします。

漱石のような軽妙洒脱な文章もさることながら、

 

【傘をさしていても、空気中をただよう細かな雨の粒子が傘の下に入りこんできて、ぼくらの顔や腕にぶつかる。
「サイダーの中を歩いているみたいだね」とお姉さんは言った。】

 

こんな思わず空想が広がり絵を描きたくなる様な描写やオノマトペや言葉の一つ一つのセンスがとても好きすぎる。


創作意欲が湧く作品っていうのはとても素晴らしいと感じる。

 

そして非現実的な様でとても人間らしい憎めぬ愛おしいキャラクター達。

名作ゲーム「ぼくのなつやすみ」が好きな方なら間違いなく好きな小説です。
キラキラした毎日と、ノスタルジーと、

切なさと。

主人公アオヤマ君は小学4年生らしからぬ論理的で研究熱心な、でもやっぱりまだまだ小学4年生な、男の子です。
背伸びして背伸びして論理的に物事を考えて、歯科医院のお姉さんや宇宙や小川を研究してるけど、人や自分の気持ちや感情には今ひとつ鈍感な可愛い少年。
自分のたったひとつの想いに気付きそれを語る最後の数段落には切なさと眩しさで胸が熱くなりました。

あとアオヤマ君の妹が死を自分のものに感じて泣くシーンは個人的に大変素晴らしいと思った。自分の体験を再上映された様だった。
あの時の足元から黒いものが押し寄せる感じは大変なのです。このシーンだけで一日は思想に更けれるなぁ。

毎日が楽しくて自分の住む街が世界の中心の様な、そして世界の果ての様な気がしていた子供の時。
あの頃に戻りたいと、だれもが思っているのではないのかなぁ。

この年になってから、そしてこの季節に読むと一層郷愁をもってしまう作品で、
私もアオヤマ君の様に昨日の自分に勝つ為に日々様々な事にアンテナを張って忘れない様にメモしたり考えたり描く事だけに全神経を集中させる生活をまたしたいし、そうなる努力をしたいと思います。

森見登美彦作品好きだよー!
オススメ。